カモミールティー
遠い日の記憶
こんばんは。moku.です。
自宅前でボヤがあったのか、今夜は消防車が数台止まっていました。
久しぶりに裸足でベランダに出ると、秋の夜の匂いがしました。
夏の終わりの匂いが終わってしまって、秋が始まる匂い。
風が肌に当たる速度と温度が心地よく、しばらく外にでて見守っていました。
幸い大事にはならなかったようで、一安心。
■眠れない夜
もともとお酒が好きなのですが、先日うっかり飲みすぎてしまい節酒生活を送っています。
仕事終わりのビールが最高なのですが、食事が終わるまで飲み物を楽しみたいというこだわりから、ビールのあとによく薄いハイボールを作って飲んでいました。
食べ終わっても、飲み終わるまではだらだらするみたいな。
しかも、ウイスキーを500mlの炭酸で割るから、いくら薄くてもなかなか減らない。
かめくんの家で夜ご飯を食べても、飲み終わる前に眠くなることが増えていました。
そこで、いっそ一日の終わりに飲むお酒を一種類に絞ることにしました。
だいたいハイボールになるのですが、薄めの薄めなのでほろ酔いにもなりません。
こりゃあいい!
しばらく「酒一日一種類生活」を送っているのですが、新たな問題発生。
夜に眠れない・・・。
以前までほろ酔いになったらすぐ眠れたのですが、ベッドに入って目を閉じても眠りにくくなりました。
そんな日もありますよね。
しかも高校の先輩にめちゃくちゃいじめられる夢も見たし。
そこで、穏やかな夜を過ごそうとスーパーへ赴きノンカフェインのハーブティーを買ってきました。
今日はそんなハーブティーにまつわる記憶を思い出したのでここに残しておきます。
■しんくたんく
小学生の頃、何度か「しんくたんく」という団体のイベントに参加したことがありました。
ニジマス釣りや廃材を使ったプチ家具づくり ect....
その中でも一番記憶に残っているのが、京都・美山町での宿泊体験。
建築士の方が美山町にゲストハウスを建てたようで、そこにシンクタンクで泊まりに行ったことがありました。
■繊細には厳しい自然での生活
本当に大自然の中に建っていたゲストハウスは、床は打ちっぱなしですぐにダイニングがあり、左手に曲がると床続きでキッチンがありました。
右手には小上がりがあって一階と二階で就寝できるように畳が敷いてありました。
ただでさえ新しい場所に馴染めない私。
ご夫婦での参加が多かったため子供は私と弟のただ二人だけでした。
見慣れない風景、見慣れない親の顔、肌馴染みのない布団に嗅いだことのない空気の匂い・・・。
風が吹くと外の草木がざわつき、暖炉の炎が少し揺れるのでした。
初めての感覚ばかりで、はちきれんばかりに小さな体の内側がいっぱいいっぱいになったことを覚えています。
■食事はもちろん地産地消
ゲストハウスには大きな暖炉があって、常に火が宿っていました。
きっと冬だったと思います。
台所では女性陣を中心にてきぱきと料理が進められていました。
待ちに待った夜ご飯、大きな岩のダイニングテーブルに並んだのは
絞めたての鶏の丸焼きでした。
もちろん捌かれ焼かれ人前に出てはいるものの、それはまごうことなき鶏でした。
■なかなか口が進まない
環境自体に緊張でいっぱいだった私は、「先ほどまで生きていた鶏」という事実の大きさを受け止めきれず、なかなか手を付けられずにいました。
普段「いただきます」や「ごちそうさま」も言うし、道徳の授業で命の尊さを学び、発言し、食事とはどういうものかわかっているはずなのに。
「いつもよりも少しだけ立ち止まって受け止めてみる」ということを知らなかった小学生の私は、大人たちが我先にと皿に盛ってくれる鶏を泣きそうになりながら口に入れていました。
■レモングラスのお姉さん
宴もたけなわ、そろそろお開きにしましょうか、という頃にはテーブルの上はすっかりきれいになっていて、あたりにちらほらワイングラスや琥珀色のウイスキーグラスがぽつぽつ置いてある程度になっていました。
私たちもゲストハウス併設のお風呂に入って星空を眺めた後、再びダイニングに集まりました。
そんな時、台所からかすかに水の音が聞こえました。
覗いてみると、たっぷりに沸かしたお湯といくらかの野草が見えました。
台所に立っていたのは、今の私よりも少し年上の女性でした。
黄色いエプロンがとてもよく似合う、栗色の髪に眼鏡をかけたつつましい女性。
彼女がのちに「レモングラスのお姉さん」として親しくなる女性です。
■初めてのハーブティー
彼女は、その時に起きていた人達にハーブティーを淹れてくれました。
いくつか種類を聞かれたものの、どれもが呪文のように聞こえたので「レモン」というワードにだけ食いついた結果、私の手元にはレモングラスのハーブティーがそっと置かれました。
初めてのハーブティーは、おいしさなんて全くわかりませんでした。
土と草の匂いがする、お湯・・・?
鼻から抜ける香りの衝撃はそれまでに体験したことのないものでした。
大人たちはおいしそうに飲んでいるからお酒と同じなのかと、なんとなく大人に近付いた気がして真似をして飲んでいた記憶があります。
■草は生えてくる
レモングラスのお姉さんがふと私に言ってくれました。
「ハーブはうまく摘めばまた同じところから生えてくる。摘んで終わりじゃないんだよ。」
鶏ショックが直撃していた私にとっては、救いのような言葉です。
えらい時間をかけて飲んだレモングラスハーブティーは、なんとなくその後しばらく経っても頭の片隅に残るのでした。
■そしてカモミールと出会う
しばらくハーブティーとは距離があったのですが、大学生の時に留学先のフランスで再びハーブティーと出会いました。
文字も読めない、うまく話せない状態で入ったスーパー。
何か飲み物を買おうにも、水しかない。よく考えたらお茶があるわけない。
新しい環境と聞きなれない言語で頭がいっぱい、緊張で眠れなくなった私を救ってくれたのがスーパーで見つけたカモミールハーブティーでした。
なせカモミールかというと、作曲家のカミーユ・サンサーンスと綴りが似ていたのでよく見てみたところカモミールということが分かり、そこから現在どうやらティーパック売り場にいるらしいというところまで認識できましたが、それ以外が読めなかったからです。(Camomille と Camille)
やっとの思いで買ったハーブティーパックは、その後フランス留学生活を共に過ごし忘れられないものとなりました。
■再び夜は来る
どんな一日でも、必ず夜は来ます。
失敗した日も、うまくいった日も、失恋した日も、辛く悲しい日でも。
一日の終わりに頭を占めていることは、反省ばかりかもしれません。
そんな人こそ、たくさん頑張っている人だと思います。
ベッドに入って憂鬱になってしまったら、どうかお湯を沸かして。
今日も反省できるくらい、あなたはたくさん頑張れましたよ。
ノンカフェインのお茶を入れて、5分間だけ反省を抜け出してみませんか?
ちなみに私は、ハーブティーを飲んでも留学時代の辛かったことばかり思い出します。
でもそれは、世界でただ一人の私が戦い抜いた記録だから。
苦い思い出が溶けていくまでは多少の時間はかかります。
傷付かなかったふりをしなくてもいいです。
しっかり傷付いたぞー---!!って思っていいです。
笑い話にならないかもしれないけど、なかったことにしなくてもいいと思います。
だから私は、ハーブティーを飲む間は自分が自分の気持ちに寄り添う時間にしています。
皆さんにもどうか穏やかな夜が訪れますように。
そんなハーブティーのお話でした。